2019/06/30
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2019/06/18
怖い話
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の本文を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
私は<認知能力が衰えた後でも、出来る限りそれ以前と同様に金融サービスを享受できる環境作りの推進>など、必要な(ある意味、当たり前の)ことがまとめられていると思いました。
麻生大臣などが嫌がっている表現は、たとえば
<高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円>となっている。<この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する>こととなる。
前述のとおり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は<単純計算で>1,300万円~2,000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。<重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。>
といったあたりではないかと思いますが、これは厚労省の社会保障審議会などでまとめられたものではなく、金融庁の審議会での議論であることを考えれば、「受取拒否」のような大人げないことをしなければならないほどのものではないと思います。
あくまで「単純計算で」出された不足額であり、
<重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、(自分たちでも)考えてみること>
というのは、もっともであると思います。
ただ、私も、その「単純計算」の計算例が、そのまま社会保障などでの議論に直結するものではないとは思います。
たとえば、金融資産から支出に回したお金が、こんな感じだったとします。
Aさん:1億円
Bさん:1,000万円
Cさん: 300万円
Dさん: 300万円
Eさん: 300万円
Fさん: 100万円
合計1億2,000万円
平均 2,000万円
Aさんは預貯金など金融資産が豊富なので、30年間の「老後生活」の中で1億円を使って贅沢したとしても生活基盤はびくともしません。
Bさんは、Aさんほどではありませんが、定年退職後に夫婦で海外旅行に行くなど、それなりに支出は行います。
Cさん、Dさん、Eさんは、だいたい年金収入で暮らしていきますが、イレギュラーな出費で300万円を使いました。
Fさんは、さらに預貯金が少なく、つましい生活を送ります。
この6軒(6世帯)の平均としては、2,000万円の金融資産を取り崩して費消した、ということになります。
が、Aさん、Bさんは、金融資産に余裕があるから使ったのであって、Cさんたちのように300万円あれば、普通の老後生活が送れた、ということになるかもしれません。
そういう考え方で行くなら、金融庁の審議会のワーキング・グループの報告書に「単純計算で1,300万円~2,000万円」不足する、と書いてあり、その仮定を前提に議論が進んでいたとしても、年金政策との整合性を追求するのは、いささかながら的はずれの感もあります。
ただし。
あえていうなら、このおおもとの家計調査報告の中には、ちょっと怖いところがあります。
これまでの議論は、「高齢夫婦無職世帯の家計収支」で、世帯平均月額54,519円不足する、ということが前提になっています。
ところが、これからは、生涯未婚率の上昇、高齢単身世帯の増加が予想されています。
で、家計調査報告に、「高齢単身無職世帯の家計収支」も出ています。
夫婦世帯と単身世帯とを比較するために、比率だけでなく実金額も表示してみました。
食料費など単身世帯が夫婦世帯の半分程度で済むものがありますが、住居費のように差が小さいものもあります。
要するに、単身世帯の方が夫婦世帯より(1人あたり生活費が)高くつく傾向にあります。
そして、高齢単身無職世帯の不足額は、40,715円。
高齢夫婦無職世帯の不足額が、世帯で54,519円ですから、1人あたりで27,000円あまり。
つまり、高齢者のうち、単身世帯率が高くなると予想されるので、生活困窮率も高くなるのではないか。
これも、あくまで単純計算での平均ですから、この数値を基に社会保障について議論を進めるのは無理があるかもしれませんが、怖い話であることは間違いないと思います。
まあ、何がいちばん怖いかといえば、自分たちの思いどおりの報告書でないからといって受取を拒否する大臣の存在だろうとは思いますが。
2019/06/17
報告書本文6
イ.金融リテラシーの向上
若年層を中心として、少額からの長期・積立・分散投資を行う層が拡大しつつあるが、つみたてNISAなどの関連制度がより幅広く活用されるためには、ア.に加えて、金融リテラシーの向上に向けた取組みも重要である。
これまでも金融庁や金融広報中央委員会(事務局:日本銀行内)、業界団体などが、学校や職場、自治体などの場で、金融リテラシー向上に向けた授業やセミナーなどを活発に開催してきたところであり、その中でも資産形成については取り扱われてきたが、長寿化の進展等の環境変化を踏まえ、より一層取組みを工夫・強化していくべきである。本報告書で示している「個々人にとっての資産の形成・管理での心構え」についても、高齢社会において個々人が金融サービスに向き合うための基礎となる一つの考え方として、関係省庁・企業・機関・地方公共団体等の協力を得つつ、ライフステージ毎の様々な機会を捉えて広く浸透を図っていくことが望まれる【9】。
若年層を中心として、少額からの長期・積立・分散投資を行う層が拡大しつつあるが、つみたてNISAなどの関連制度がより幅広く活用されるためには、ア.に加えて、金融リテラシーの向上に向けた取組みも重要である。
これまでも金融庁や金融広報中央委員会(事務局:日本銀行内)、業界団体などが、学校や職場、自治体などの場で、金融リテラシー向上に向けた授業やセミナーなどを活発に開催してきたところであり、その中でも資産形成については取り扱われてきたが、長寿化の進展等の環境変化を踏まえ、より一層取組みを工夫・強化していくべきである。本報告書で示している「個々人にとっての資産の形成・管理での心構え」についても、高齢社会において個々人が金融サービスに向き合うための基礎となる一つの考え方として、関係省庁・企業・機関・地方公共団体等の協力を得つつ、ライフステージ毎の様々な機会を捉えて広く浸透を図っていくことが望まれる【9】。
【9】 例えば、ライフステージごとに、一定の年齢ゾーンの世代にとって必要となる考え方や心構えについて記述した一連のパンフレットを幅広く用意することが考えられる。特に、公的年金の受給の開始や退職金の受取りといった資産・収入の面での変化が起きるリタイヤ期前後において、こうした変化を契機に資産形成・管理の考え方について研修などが行われる仕組みが作られることが望まれる。
また、多くの者にとって退職金や年金は老後の資産の大きな柱であることから、金融リテラシー向上に向けた企業の取組みも重要である。
退職金がある場合には、大きな金額が資産運用に回りうることを踏まえると、退職金の使途の検討に十分な時間をかけることができることが望ましい。退職金がいくらになるかの見通しを出来る限り早い時期に雇用者から本人に通知することは社員の福利厚生の向上の面でも重要であり、各企業の積極的な取組みが望まれる。
金融リテラシーの向上における企業年金の役割も重要であり、適切なガバナンスの下で受益者本位で運用されることはもとより、その前提として運用状況や給付額について、より職員が把握しやすくなるよう各企業が取り組むことも望まれる。また、確定拠出型の企業年金(DC)では、事業主は確定給付型の企業年金のような運用の責任は負わないが、従業員に対する投資教育の義務などその役割は小さくない。事業主においては、より従業員一人ひとりの資産形成に資するような投資教育・継続教育を行うことや、従業員のリテラシーも踏まえつつ資産形成に資する運用の選択肢を用意することが求められる。従業員の金融リテラシーを高め、資産形成を支えていくという点では、DCに取り組んでいない企業についても、同じく企業に期待される役割は大きい。
ウ.アドバイザーの充実
個々人のライフスタイルが多様化する中、金融商品・サービスも多様化してきている。こうした多様な商品・サービスを個々人が自身の力のみで選ぶことについては、人によって困難が伴うことも想定される。
この観点から、個々人に的確なアドバイスができるアドバイザーの存在が重要である。現状では、その役割は主として本人に一番身近な金融機関などが担うことが想定されるが、業態ごとの商品・サービスが多様化しているため、単一の業態の金融サービス提供者が全ての商品・サービスを俯瞰したアドバイスを行うことには難しい面がある。このため、特に強く求められるのは顧客の最善の利益を追求する立場に立って、顧客のライフステージに応じ、マネープランの策定などの総合的なアドバイスを提供できるアドバイザーである。こうしたアドバイザーとなり得る主体としては、投資助言・代理業、金融商品仲介業、保険代理店やフィナンシャルプランナーなど様々な業者が存在する。米国では証券会社などの金融サービス提供者から独立して、顧客に総合的にアドバイスをする者が多数いるが、日本においてこれに類似する者は存在するものの、まだまだ認知度は低く、数は少ない。今後は認知度向上に努めるとともに、そのサービスの質的な向上に努めることが望まれる。
また、本人に一番身近な金融機関などの者においても、単一の業態に留まらない顧客のニーズに応じた総合的なアドバイスを行うことは、顧客からの信頼を得る上で、また、高齢社会の金融サービス提供における役割を果たす上でも重要なことである。
エ.高齢顧客保護のあり方
高齢期における顧客への対応のあり方は「(2)金融サービスのあり方」ですでに述べた。しかしながら、個社レベルでの対応のみならず、全体としての対応のあり方に再検討を要する面があると考えられる。例えば、現在の日本証券業協会の投資勧誘等のルールでは一定の年齢を目安にそれまでの年齢の顧客と違う対応を求めている【10】。75歳頃から認知症の発症率が上昇していくことを踏まえると、これには一定の合理性が認められるが、高齢者の状況も非常に多様である。75歳以前でも認知能力に問題がある者もいれば、80歳を超えても非常に元気な者もいる。本来は、個々人に応じたきめ細やかな対応が望ましく、例えば、リスクが高い複雑な商品の提供は厳しく抑制する一方で、リスクが低い簡素な商品については説明内容を軽減し、商品のリスクや複雑さに応じてメリハリをつけるなどの対応が望まれる。高齢顧客保護のあり方については、顧客本位の業務運営を徹底しつつ、業態を問わず金融業界として横断的に、金融ジェロントロジー【11】の進展に応じて見直していくことが必要と考えられる。
また、本人が望む場合には、認知・判断能力の低下・喪失後も資産運用を続けられることが望ましい。前述のとおり、認知・判断能力に支障がある者や障害者の生活や財産を守ることを目的とした制度の一つとして、成年後見制度がある。成年後見制度における資産管理のあり方について、わが国においても、前述の米国のプルーデント・インベスタールールの考え方【12】なども参考にしながら、<本人意思の尊重と財産保護という二つの両立を図るための方策を、関係省庁等が連携して検討していくべき>である。
【10】 例えば、日本証券業協会では、リスク商品を販売する際の自主規制規則及びガイドラインにおいて、75歳以上を目安として高齢顧客として、その顧客に対する商品勧誘にあたっては役席者による事前承認などを求めている(80歳以上の高齢顧客に対しては更なる慎重な対応を求めている。)。
【11】 P50脚注参照。
(P50脚注)
金融ジェロントロジーとは、高齢者の経済活動、資産選択など、長寿・加齢によって発生する経済課題を、経済学を中心に関連する研究分野と連携して、分析研究し、課題の解決策を見つけ出す新しい研究領域のこと(ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター)。
【12】 P8「プルーデント・インベスタールール」のコラム参照。
(「プルーデント・インベスタールール」のコラム)
【米国におけるプルーデント・インベスタールール】
資産形成においては、ポートフォリオ全体のリスク・リターン管理の観点からの分散投資が有効である。米国ではこうした考え方に基づきプルーデント・インベスタールールを定め、同ルールにおけるフィデューシャリー(受託者)に原則として分散投資を求めている。そして、成年後見制度における後見人もフィデューシャリーであるとして、資産管理に分散投資が義務付けられている。
(以下略)
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の本文は、ここまでです。
さて・・・(謎)
2019/06/16
報告書本文5
(3)環境整備
(1)及び(2)では、高齢社会における金融サービスに関して、個々人の資産形成・管理での心構えやこれに対応した金融サービス提供者のあり方が重要であることを述べた。これに加えて、行政機関や業界団体などによる種々の環境整備も劣らず重要である。
(1)及び(2)では、高齢社会における金融サービスに関して、個々人の資産形成・管理での心構えやこれに対応した金融サービス提供者のあり方が重要であることを述べた。これに加えて、行政機関や業界団体などによる種々の環境整備も劣らず重要である。
ア.資産形成・資産承継制度の充実
ライフステージを通じた長期の資産形成における長期・積立・分散投資の有効性についてはこれまで述べてきたとおりであるが、こうした長期に亘る資産形成を支援する制度として、税制面で一定の優遇が行われている「つみたてNISA」と「iDeCo」がある。
つみたてNISAは年間40万円までの積立投資について運用益が非課税(2037年までの時限措置)であり、手数料等が安い公募株式投資信託商品などに限定されている。20歳以上の国内居住者であれば誰でも利用でき、その資産はいつでも引き出し可能である。iDeCoは、掛金の上限は年間14.4万円~81.6万円であり、運用益は課税停止中であることに加え、掛金も全額所得控除、年金受給時も一定の税優遇がある。商品は各金融機関等により異なるが、国内外の株式・債券や投資信託など幅広く取り扱う。加入可能年齢は20歳から60歳までとなっており、その資産は年金という制度趣旨に鑑み、60歳になるまで中途引き出しは原則不可となっている。
ライフイベントに応じて引出すことが可能なつみたてNISAと、年金制度として所得控除が認められているiDeCoとは、両者を併用することで、住宅購入などの計画的に準備が必要な支出や、病気、事故、失業などの予想外の支出への備えをしつつ、老後に向けた資産形成が可能となるものである。よって、お互いが補完しあう関係として活用が進むことが望ましい。このように、制度面では、個人の資産形成を促す制度が相応に整備されてきているといえる。
また、保有可能期間は5年間と短いが同じく個人の資産形成に資する制度として一般NISAが存在する。制度開始からの5年間で口座数が1,100万口座を上回り、つみたてNISAに先行して個人投資家の増加に寄与してきた。これから長寿社会を迎えるに当たって、退職金の受け皿としての機能も期待される。
つみたてNISAとiDeCoの両制度ともまずは順調に利用者が増加しているものの、その利用は国民の一部に留まっている。わが国の成人人口を考えれば、今後さらに広く普及が進む余地も大きいが、未だ十分に制度の存在を知らない層や、知っていたとしてもその意義を十分理解していない層も多いと考えられる。金融庁と厚生労働省は、それぞれが連携し、今後より一層の制度の周知に努めるとともに、若年期から資産形成に取り組むことの重要性についても、広報していくべきである【4】。
そうした普及に向けた取組みと並行して、つみたてNISA、iDeCoともに、利用者の声を聞きながら、制度そのものの改善にも努めていくべきである。
つみたてNISAについては、まずもって国民が長期のライフプランに沿った資産形成に安心して活用できるよう、時限を撤廃し、恒久的な措置とすることが強く望まれる【5】。
【4】 NISAについて、現在3つの制度(一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISA)が並存しており分かりにくいとの指摘もあり、それぞれの制度の違いを広報することも重要である。
【5】 NISAが参考にした英国のISA制度においては、1999年の導入時は、順調にいかなかった際に制度を取りやめられるよう10年間の時限措置であったが、2008年に、順調に広く普及したことを踏まえ正式に恒久的な制度と認められたという経緯を辿っている。また、更にライフステージにあわせた資産形成制度が必要との観点から、各種プランが導入されるなどの制度の改善が行なわれている。こうした制度改正の追い風もあり、広く国民に普及した制度として成長してきたと考えられる。
また、より利便性の高い制度を構築するため、非課税保有期間について無期限とすること、ライフプランに沿って拠出額を柔軟に変更させることができるようにすること、現在は回転売買防止の観点などから認められていないスイッチング【6】を条件次第で可能とすること、その他、例えば配偶者死亡時においてNISAの非課税枠を引き継げるようにすることなども、検討していくべき課題であるとの指摘があった【7】。
【6】 NISA 口座内で保有している金融商品を売却し、別の金融商品を購入することで入れ替えること。
【7】 つみたてNISAのみならず、一般NISAについても利便性の高い制度とすべきとの意見があった。
iDeCoについても、長寿化を踏まえ、拠出可能年齢の上限を引き上げることのほか、利便性向上や働き方の多様化等への対応、また、更なる税優遇を行うことの政策的必要性を勘案して、拠出限度額のあり方についても検討することも望ましい。
その他の課題として、個々人において多様化が進んでいるとはいえ、高齢期の者を中心に持ち家比率は高く、住宅資産を有効に活用できる環境整備も重要と考えられる。例えば、リフォーム市場の活性化や、良質な既存住宅の資産価値の適正評価を促すなど既存住宅の流通を活性化させるための施策を、より一層推進することが望まれる。
資産形成により構築した資産を次世代に有効に承継していくという視点も重要である。相続税評価額の算出時には、不動産の時価に一般的に時価より低い路線価が用いられる一方、株などの有価証券では時価である株価等が用いられている。この違いにより、不動産が金融資産よりも投資対象として選好され資産選択に歪みが生じているとの指摘があり、資産承継に関する制度のあり方についても、検討していくべき課題である。
また、企業経営においても高齢化が進んでいる。今後、10年間で200万人を超える中小企業等の経営者が引退時期を迎えるとされる中、事業承継は重要な課題である。こうした状況を踏まえ、一般の非上場株式の場合と事業承継に伴う非上場株式の場合の違いに留意しながら、非上場株式の売買の媒介に関する業界の自主規制を改正し、金融サービス提供者が事業承継の円滑化に貢献することが期待される【8】。
【8】 非上場株式については、日本証券業協会規則によりその投資勧誘が原則として禁止されているものの、2019年5月、事業承継を含む経営権の移転等を目的とする非上場株式の取引に係る投資勧誘を解禁する規則改正案が公表された。
(つづく)
2019/06/16
報告書本文4
(4)認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうる
前述のとおり、わが国の高齢者は元気であり、たとえば60代ぐらいは昔のイメージの高齢者とは違う存在になりつつあるといえる。実際に、定年延長の影響もあり、多くの高齢者がいまだ現役で働き、社会の中で活躍し続けている。
しかしながら、長寿化と認知症の人の増加を踏まえると、今後は認知症の人はもはや決して例外的存在ではなく、認知・判断能力の低下は誰にでも起こりうると認識すべきであるといえる。現状では、認知・判断能力が低下し、本人による意思能力が不十分となった場合、また、そのように判断された場合には日常生活を送るにあたって様々な制約を受けることになる。これを出来る限り回避するための事前の備えや適切な対応の重要性が増していくものと考えられる。
3.考えられる対応
今まで述べた現状及び基本的視点と考え方をよく認識しつつ、個々人や金融サービス提供者はどういった対応が考えられるか。また、各主体による対応に加え、その対応を有効なものにしていくための環境整備も必要になると考えられる。
(1)個々人にとっての資産の形成・管理での心構え
長寿化が進む中、資産形成・管理において、資産寿命を延ばす観点から、広く国民が知っておくことが望ましい事項があると考えられる。詳しくは付属文書1で述べることとするが、人生のステージに応じて整理すると以下のような点が考えられる。
○ 現役期
長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期であり、例えば、以下のような対応が有効と考えられる。
・「人生100年時代」においてこれまでよりも長く生きる人が多いことを前提に、老後の生活も満足できるものとなるよう、早い時期からの資産形成の有効性を認識する。
・生活資金やいざというときに備えた資金については元本の保証されている預貯金等により確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
・自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討する(必要に応じ、信頼できるアドバイザー等を見つけて相談する)。
・金融サービス提供者が顧客側の利益を重視しているかという観点から、長期的に取引できる提供者を選ぶ。
○ リタイヤ期前後
リタイヤ期以降の人生も長期化していることに対応し、金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期である。人によって、退職金などの多額のお金が入ったり、働き方に変化が生じることが想定されるため、これらを受けた対応が必要と考えられる。
・退職金がある場合、早期の情報収集と使途の検討及び退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを再検討する。
・必要に応じ、収支の改善策を実行する。
・長い人生を見据えた、中長期的な資産運用の継続(長期・積立・分散投資等)とその後の計画的な取崩しを実行する。
○ 高齢期
資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期であり、心身の衰えに関わらず金融サービスを引き続き享受するために、事前の準備や対応が必要と考えられる。
・心身の衰えを見据えてマネープランを見直す(医療費、老人ホーム入居費等)。
・認知・判断能力の低下や喪失に備え、取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくする。また、<金融面の本人意思を明確にしておき、自ら行動できなくなったとしても、他者のサポートにより、これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておく。>
(2)金融サービスのあり方
(1)で述べた個々人のニーズに対して、顧客の資産寿命を伸ばしていく上で、金融サービス提供者がどのように顧客をサポートできるか、考えられる対応を整理する。詳しくは付属文書2で述べる。
まず前提として重要になってくることは以下の二つである。
○ 顧客本位の業務運営の徹底
・顧客の状況からみて、過度にリスクの高い商品の販売を行わない等、顧客にとってふさわしいサービスを提供すること
・手数料の明確化
・リスクやリターン等を顧客が自ら判断できるようにするための分かりやすい情報提供等
○ サービスに見合う適切な対価の説明と請求(サービスの持続可能性や顧客の利用しやすさにも配慮)
その上で、顧客の「長寿化」「自助の充実」「多様化」「認知・判断能力の低下・喪失への備え」に対して、考えられる対応としては以下が考えられる。
・「自助」充実のニーズ増に応じ、資産形成・管理やコンサルティング機能の強化
・多様な顧客ニーズに応じ、商品・サービスの多様化や「見える化」の推進
・<認知・判断能力が低下・喪失した者に対する資産の運用・保全向けの商品・サービスの充実>
顧客の年代別に整理すると、以下の通り。
○ 現役期の顧客への対応
現役期の顧客は他の年代に比べ、ネットの金融資産は多くなく、金銭的にも時間的にも生活に余裕は少ない。しかしながら老後の資金も含め、資産形成ニーズを潜在的に保有している。これらの特徴を踏まえた商品やサービスの提供が必要であると考えられる。
・可能な限り、金融以外の資産・負債も含む家計のポートフォリオ全体を俯瞰し、個々の状況に即したマネープランの提案など総合的なコンサルティングサービスの提供。
・資産形成のニーズに対して、短期的な取引関係に終わらせず、長期・積立・分散投資等を提案。
・顧客との信頼関係の構築により、退職後も含めた長期的な取引関係へと結実。
○ リタイヤ期前後の顧客への対応
リタイヤ期前後の顧客は、働き方を変える、退職金を得るなどにより、残りの人生の過ごし方とあわせて、顧客自らの収支を見直す時期と言える。顧客の多様性に応じた対応が特に求められる。
・就労延長や支出抑制策を含めた、特定の金融サービスに留まらないライフプラン・マネープランの提供
・就労延長・資産取崩し・リスク許容変化・長生きリスクに応じた多様な商品サービスの充実
・顧客の利益に沿ったワンストップ化サービスの提供
・他社の類似商品との比較のしやすさに配慮した商品の説明や内容の開示
○ 高齢期の顧客への対応
高齢期の顧客は心身の衰えに応じ、介護等ニーズが増大し、マネープランを改めて見直すとともに、認知能力の低下・喪失に備えて、金融面でも準備を行う時期である。心身が衰えた後でも、金融サービスを受けられるサポートを提供することが重要と考えられる。
・業界の垣根を越え、非金融サービスとも連携した総合的なサービスの提供
・<認知能力が衰えた後でも、出来る限りそれ以前と同様に金融サービスを享受できる環境作りの推進>
(つづく)
2019/06/16
報告書本文3
(4)金融環境に対する意識
では、こうした環境変化に対応して、国民は老後の生活をどのように意識しいるか。内閣府が実施した世論調査では、「老後の生活設計を考えたことがある」と回答した人は、全体で67.8%となっており、60代をトップに30代以上では軒並み50%以上となっている。また、「ある」と回答した人に対して考えたことがある理由は何かを問うたところ、多数を占めた回答が「老後の生活が不安だから」であり、多くの人が老後生活に不安を抱えている現状がわかる。
<他のアンケート調査でも、「老後に対する不安がある」と答えた比率が高い傾向>があり、50代以下の世代では、老後に対する不安要因として「お金」が挙げられていることが多い。また、世代を問わず老後の備えとして自ら想定する金額と現在の金融資産額(平均)との間に大きく差額が生じているとするアンケート結果もある。こうしたことから、老後の不安として「お金」が主要要因となっていることが窺える。
では、こうした老後の資金の不安に対して、どのように対処すればよいと考えているか。<資産寿命【2】を延ばすために必要なことを尋ねた調査によれば、「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約」を挙げる回答が多いが、このほかに約3割の者は「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」を挙げている。>
【2】 資産寿命とは、「生命寿命」や「健康寿命」と関連して、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間。資産寿命が尽きた後は年金等のフローの収入のみで生活を営んでいくこととなる。
他方、別の調査では<「老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産」として「証券投資(株式や債券、投資信託など)」を挙げた者は2割以下に留まり、実際に投資を行っている者の割合はこれよりもさらに低い水準となっていることが予想され、>意識と行動に乖離があることが窺える。投資による資産形成の必要性を感じつつも、投資を行わない理由として上位を占めているのが、<「まとまった資金がない」、「投資に関する知識がない」、「どのように有価証券を購入したらよいのかわからない」という回答>であり、顧客側の問題に加え、金融機関側が顧客のニーズや悩みに寄り添いきれていない状況が窺える。
2.基本的な視点及び考え方
以上が高齢社会を取り巻く環境変化についての現状整理であるが、ここから、高齢社会における金融サービスに関して、個々人及び金融サービス提供者の双方が共に認識することが望ましい事項が導き出されるのではないかと考えられる。以下、その事項について述べる。
(1)長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要
前述のとおり、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は<単純計算で>1,300万円~2,000万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。当然不足しない場合もありうるが、これまでより長く生きる以上、いずれにせよ今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要になってくるものと考えられる。<重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。>それを考え始めた時期が現役期であれば、後で述べる長期・積立・分散投資による資産形成の検討を、リタイヤ期前後であれば、自身の就労状況の見込みや保有している金融資産や退職金などを踏まえて後の資産管理をどう行っていくかなど、生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理の重要性を認識することが重要である。
(2)ライフスタイル等の多様化により個々人のニーズは様々
かつて高齢者の世帯形態は親、子、孫という三世代が同居する世帯が多数を占めていたが、最近では夫婦のみの世帯や単独世帯の割合が増加しており、三世代が同居する世帯はむしろ少数派となってきている。特に単身世帯の増加は著しい。働き方も柔軟化し、終身雇用や年功序列といったこれまでの雇用慣行も変わりつつある。かつて「一億総中流」と呼ばれた日本社会であったが、前述のとおり、保有資産や所得等の状況はバラつきが見られるようになってきている。こうした変化は、個々人の行動にも大きく影響を与えているものと考えられる。
このようにライフスタイルが多様化する中では、個々人のニーズは様々であり、大学卒業、新卒採用、結婚・出産、住宅購入、定年まで一つの会社に勤め上げ、退職後は退職金と年金で収入を賄い、三世帯同居で老後生活を営む、というこれまでの標準的なライフプランというものは多くの者にとって今後はほとんどあてはまらないかもしれない。今後は自らがどのようなライフプランを想定するのか、そのライフプランに伴う収支や資産はどの程度になるのか、個々人は自分自身の状況を「見える化」した上で対応を考えていく必要があるといえる。
(3)公的年金の受給に加えた生活水準を上げるための行動
人口の高齢化という波とともに、少子化という波は中長期的に避けて通れない。前述のとおり、近年単身世帯の増加は著しいものがあり、未婚率も上昇している。公的年金制度が多くの人にとって老後の収入の柱であり続けることは間違いないが、少子高齢化により働く世代が中長期的に縮小していくことを踏まえて、年金制度の持続可能性を担保するためにマクロ経済スライドによる給付水準の調整が進められることとなっている。こうした状況を踏まえ、今後は年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる【3】。
【3】 この他、企業年金などの充実も、老後収入の確保という視点から、重要な視点である。
(つづく)
2019/06/16
報告書本文2
(2)収入・支出の状況
ア.平均的収入・支出
わが国では、バブル崩壊以降、「失われた20年」とも呼ばれる景気停滞の中、賃金も長く伸び悩んできた。年齢層別に見ても、時系列で見ても、高齢の世帯を含む各世代の収入は全体的に低下傾向となっている。公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。
支出もほぼ収入と連動しており、過去と比較して大きく伸びていない。年齢層別に見ると、30代半ばから50代にかけて、過去と比較して低下が顕著であり、65歳以上においては、過去と比較してほぼ横ばいの傾向が見られる。
60代以上の支出を詳しく見てみると、現役期と比べて、2~3割程度減少しており、これは時系列で見ても同様である。
しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、<高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円>となっている。<この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する>こととなる。
イ.就労状況
わが国の高齢者は総じて元気である。これは、他国に比して、また過去と比較しても当てはまる。<2016年においては、65歳から69歳の男性の55%、女性の34%が働いており、これらの比率は世界でも格段に高い水準>となっている。
体力レベルを見ても、現在の高齢者は過去のわが国の高齢者と比較して高い水準にある。また、アンケート結果では、60歳以上で仕事をしている者の半数以上が70歳以降も働きたいと回答している。
思考レベルも高い。現在、60歳から69歳でインターネットを使っている人は全体の4分の3にのぼるほか、OECDの調査によれば、<60歳から65歳の日本人の数的思考力や読解力のテストのスコアはOECD諸国の45歳から49歳の平均値と同じ水準>となっている。
こうした現状を踏まえれば、高齢者の就労継続は今後も続くのではないかと考えられる。
他方、若年層を中心に働き方は多様化している。最近では、転職はもちろんのこと、副業という形態で、個人が複数の仕事を持つという形式は増えつつあるし、企業や組織に属さず働く、いわゆるフリーランスという働き方も増加してきている。
このように多様なスキルを身につけ、そのスキルを生かしながら、一つの企業に留まらず働くということは、長く働き続けることができる可能性を高めうる。その一方、退職金が一定の勤続年数に応じて発生する又は勤続年数に比例して増加する形式の場合、転職が多い者や自営業も含め企業や組織に留まらない働き方の者は退職金が受け取れないか、退職金があっても低い水準になる可能性がある。すなわち、<一つの企業に留まらない働き方は、多くの者にとって老後の収入の柱である退職金給付という点で不利な面もある。>
ウ.退職金給付の状況
わが国に根付いてきた賃金制度として、退職給付制度がある。かつては退職金と年金給付の二つをベースに老後生活を営むことが一般的であったと考えられるが、公的年金とともに老後生活を支えてきた退職金給付額は近年減少してきている。この退職金の推移について詳しく見ていくと、退職金給付制度がある企業の全体の割合は徐々に低下をしており、2018年で約80%となっている。
この割合は企業規模が小さくなるにつれて小さくなる。
また、定年退職者の退職給付額を見ると、平均で1,700万円~2,000万円程度となっており、ピーク時から約3~4割程度減少している。
今後見込まれる雇用の流動化の広がりを踏まえると、<退職金制度の採用企業数や退職給付額の減少傾向が続く可能性がある。>退職金制度の有無、その給付金額は退職後の生活に大きな影響を及ぼしうるため、自身の退職金の見込みや動向については、早い段階からよく確認しておく必要がある。
退職金を受け取った後に関するアンケート調査によれば、4人に1人が投資に振り向けており、また、投資に振り向けた人の半数弱は退職金の1~3割を投資に回している。
他方で、<退職金の給付額を把握した時期について、約3割が「退職金を受け取るまで知らなかった」、約2割が「定年退職半年以内」と回答している。>
退職金の金額の大きさを踏まえると資産運用に回す金額は多額であると言えることから、こうした投資を行う際には、運用方針や資産運用にあたって必要な金融に関する知識を、事前にある程度は身につけてから臨むことが望ましいと言える。
(3)金融資産の保有状況
金融資産の保有状況は各人により様々であることから、平均的な姿をもって一概に述べることは難しい面があるが、全体的な傾向として、若年層よりもシニア層の方が全体に占める金融資産の保有割合が高く、この傾向は今後も続く見込みである。また、若年層は住宅ローンなどの負債を比較的多く抱えている。
老後の生活においては年金などの収入で足らざる部分は、当然保有する金融資産から取り崩していくこととなる。<65歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252万円、1,552万円、1,506万円となっている。>なお、住宅ローン等の負債を抱えている者もおり、そうした場合はネットの金融資産で見ることが重要である。
(2)で述べた<収入と支出の差である不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1,300万円、30年で約2,000万円の取崩しが必要になる。>
支出については、<特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要>である。さらに、仮に自らの金融資産を相続させたいということであれば、金融資産はさらに必要になってくる。(2)と合わせ、<早い時期から生涯の老後のライフ・マネープランを検討し、老後の資産取崩しなどの具体的なシミュレーションを行っていくことが重要>であるといえる。
なお、米国では75歳以上の高齢世帯の金融資産はここ20年ほどで3倍ほどに伸びている一方、わが国の同年代の高齢世帯の金融資産はほぼ横ばいで推移しており、対照的な動きとなっている。米国では、市況が好調だったことに加え、401(k)プラン等の制度的な後押しもあり、現役期から資産形成を実行し且つ継続するとともに、そのような世代が歳を重ねるに従い、高齢世帯の資産が増加していったと推察される。この点、わが国でも後述するつみたてNISAやiDeCo等が整備され、個人が長期の資産形成を行うに際して、制度的な環境が整いつつある。
(つづく)
2019/06/16
報告書本文1
それでは、 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」の本文を。
なお、<色付き>部分は、引用者が加工したものであるほか、脚注の表記などレイアウトを変更した部分があります。
1.現状整理(高齢社会を取り巻く環境変化)
(1)人口動態等
(1)人口動態等
ア.長寿化
冒頭でも述べたとおり、日本人は年々長寿化している。1950年頃の男性の平均寿命は約60歳であったが、現在は約81歳まで伸びている。現在60歳の人の約4分の1が95歳まで生きるという試算もあり、まさに「人生100年時代」を迎えようとしていることが統計からも確認できる。
寿命に関連して、「健康寿命」【1】という概念があるが、この健康寿命は、男性で約72歳、女性で約75歳である。<平均寿命から考えると9~12年は、就労が困難など、日常生活に何らかの制限が加わる形で生活を送る可能性>がある。日常生活に制限が加わるということは、金融面でいえば、<就労の困難化に伴う収入の減少>や、<介護費用など特別の費用がかかることによる支出の増大>といった家計の影響のほか、<金融機関の窓口へ出向くことが困難になるなど円滑な金融サービスの利用にも支障が出るようになる>ことから、この健康寿命と平均寿命の差を縮めていくことが重要である。
【1】 寿命において健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間(平成26年版厚生労働白書)。
イ.単身世帯等の増加
わが国の人口動態の特徴として、長寿化に加えて、少子高齢化が挙げられる。人口ピラミッドで見ると、かつては「富士山型」であったものが、現在は「つぼ型」であり、今後も「つぼ型」の形状は変わらず、高齢者が若年者に比べて突出して多いという姿になることが見込まれている。
人口構成が「富士山型」であった頃の家族形態は、親と子の世帯や祖父母を含めた三世代世帯が多かった。しかし、最近では、少子化等を背景として夫婦のみの世帯が割合を伸ばすとともに、未婚率の上昇やライフスタイルの多様化と相まって、近年単身世帯もその割合を急速に伸ばしている。少子化や晩婚化の動向を踏まえると、今後もこうした傾向は続くものと思われる。
また、かつては持ち家があることが当たり前であったが、持ち家比率も60歳未満は低下が著しい。
結婚後、夫婦と子供、親と同居し、持ち家を持ち、<老後の親の世話は子供がみるというようなかつて標準的と考えられてきたモデル世帯は空洞化してきている。>
ウ.認知症の人の増加
(略)
加齢とともに認知・判断能力が低下し、心身の機能が衰えていくことには個人差はあるものの誰にでも起こる現象である。これに起因する金融サービスにおける制限は多岐に渡るが、その一つに<資産の管理が自由に行えない点>が挙げられる。資金の自由な引き出しはもちろん、これまで資産運用を行ってきた場合でも、<認知・判断能力に問題があり、本人意思が確認できないと判断された場合には一定の制限がかかりうる。>
認知・判断能力に支障がある者や障害者の生活や財産を守ることを目的とした制度の一つとして、成年後見制度がある。成年後見制度の利用は、同時期に制度がスタートした介護保険制度に比べると、現状低調であるものの、国が策定した成年後見制度の利用を促進する計画に基づく環境整備が進んでおり、<認知症の人も含めて、今後、成年後見制度を利用する者が増加することが予想される。>後述する個人の金融資産の大半を高齢者が保有する状況に鑑みれば、同制度の利用増加に伴い、<同制度の枠組みに入る金融資産が大きく増加していくことが想定される中、これらをどう管理していくかは重要な課題の一つ>と言える。
(つづく)
2019/06/13
「2000万円不足」の根拠
さて、前記事で触れた、金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書で話題になっている、
月5万円の赤字、30年で約2000万円の不足というのは、次の部分です。
(出典)として、「第21回市場ワーキング・グループ 厚生労働省資料」と書かれていますね。
これを探してみます。
(出所)として、総務省「家計調査」(2017年)と書いてありました。
それでは、この資料を探してみます。
ありました。
たしかに、不足分54,519円とあります。
1年では、54,519円×12か月=654,228円の不足となりますから、
20年で、13,084,560円(だいたい1300万円)
20年で、13,084,560円(だいたい1300万円)
30年で、19,626,840円(だいたい2000万円)不足する、という計算は成り立ちます。
たとえば、住居費は環境、地域等によって差があるでしょうし、食料費なども工夫の余地がないことはないので、
この数字を高齢者全員が覚悟しなければならないのか、というと、いろいろ意見があるだろうとは思います。
ただ、総務省が調査を行い、厚生労働省も活用したこの資料を基にして、
金融庁の審議会ワーキンググループが提出した報告書に対して、
麻生氏や萩生田氏のような批判を行うのは、やはりおかしい。
もし、この月5万いくら、30年で約2000万円という不足額について批判するのなら、
金融庁やその審議会等に対してでなく、総務省やその調査に対して行うべきでした。
(私には、それほど批判されるべき調査とは思えませんが。)
それにしても、この程度の理屈さえ理解できないような大臣は、財務大臣にも金融担当大臣にも向かないとしか思えないのですが。
2019/06/12
金融審議会 ・市場WG報告書概要
「受け取らない」と麻生氏が発言して問題になっている金融審議会の報告書について。
この金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書というのは、年金など社会保障について議論することを目的としたものではありません。
ざっと目を通しただけでも、
「高齢社会のあるべき金融サービスとは何か」
という、あくまで金融庁や金融業界などの立場から作り上げたものだということはわかります。
(報告書や関係資料は、こちらからダウンロード可能です。)
金融審議会 「市場ワーキング・グループ」報告書 の公表について
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603.html
概要としては、こんなイメージ。
(画像右下のプラスマークをクリックすると拡大表示されます・・・ヤフーブログでは。これが他ブログに移行した後はどうなるかわかりませんが。)
従来の社会、50代半ばで定年を迎えていた時代に比べれば、就労期間は高齢方向に延び、
それまでに蓄えた金融資産や退職金などを運用したりして、
資産の減少速度を緩やかにし、資産の寿命も延ばす。
そういう顧客にふさわしい金融関係サービスはどうあるべきか、というのがテーマであって、
今の年金制度を直接的に批判しているわけでは(たぶん)ないはずです。
顧客が認知症になった場合の資産運用の継続性についても触れています。
(たいした対応策は示されてはいなかったと思いますが。)
いずれにしても、
自分(たち)にとって不都合な内容のものは正式には受け取らないことにする
というのは、大臣としても、国会議員としても不適格だろうと私は思います。
<追記>
この人も理解力がない。(忖度力はあるのかもしれませんが。)
↓
萩生田氏、「2000万円蓄え」の金融庁報告書は「評価に値しない」
(産経新聞 6/11(火) 11:37配信)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190611-00000531-san-pol
萩生田氏、「2000万円蓄え」の金融庁報告書は「評価に値しない」
(産経新聞 6/11(火) 11:37配信)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190611-00000531-san-pol